1 前科による歯科医師免許への影響

歯科医師が刑事事件の当事者となる場合、その資格・地位による様々なリスクがあります。
このページでは、歯科医師の刑事事件について解説いたします。

(1)罰金刑以上の前科がつくと歯科医師免許の取消しとなる可能性がある

歯科医師に前科がついた場合の取り扱いは、歯科医師法に定められています。
まず、歯科医師法4条3号・4号は、「罰金以上の刑に処せられた者」等には、免許を与えないことがあることを定めています。

第四条 次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。
 ・・・
三 罰金以上の刑に処せられた者
四 前号に該当する者を除くほか、医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者

そして、歯科医師法7条の定めにより、「罰金以上の刑に処せられた者」等は、厚生労働大臣により、「戒告」「三年以内の歯科医業の停止」「免許の取消し」のいずれかの行政処分が下される可能性があります。 

第七条 歯科医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は歯科医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。
一 戒告
二 三年以内の歯科医業の停止
三 免許の取消し

具体的な行政処分の内容は、医道審議会によって審査が行われたうえで決定されます。
この医道審査会は、厚生労働省が設置する医師や歯科医師に対する行政処分を決定するための専門機関で、その中の医道分科会で行政処分が決定されています。

(2)罰金以上の刑とは

罰金以上の刑とは、以下の刑が該当します。

罰金刑 1万円以上の金銭の支払を命じられる刑罰
禁錮刑 30日以上の期間で、刑務所等の刑事施設に収容する刑罰で、刑務作業が義務づけられていないもののこと(強制労働がない)
懲役刑 30日以上の期間で、刑務所等の刑事施設に収容される刑罰で、刑務作業が義務づけられているもの(強制労働がある)
死刑 対象者(死刑囚)の生命を奪い去る刑罰

刑事事件になっても「科料」(1万円未満の金銭の支払を命じられる刑罰)や「拘留」(30日未満の期間で、刑務所等の刑事施設に収容される刑罰)であれば、歯科医師免許に影響しません。
科料や拘留は罰金刑よりも軽い刑だからです。

(3)歯科医師に前科がつく典型例

歯科医師に前科がついて歯科医師免許に影響が出る典型例は、以下のケースです。
このような犯罪行為をすると、逮捕・起訴され、罰金刑以上の刑罰を受ける可能性があります。

痴漢
盗撮
児童買春(援助交際など)
児童ポルノ
万引き
交通違反
暴行
傷害
名誉毀損

前科とは起訴され刑事裁判で有罪が確定することをいいますので、逮捕・勾留されただけでは「罰金以上の刑に処せられた者」には該当しません。
ただし、後にも述べますが、勾留期間が長期間に及んだ場合、犯罪行為の事実が自分の周囲に知れ渡り、結果的に仕事を失ってしまう可能性は高くなります。

2 歯科医師の前科による行政処分の種類

歯科医師に前科がついて受けることとなる行政処分の種類は、「戒告」「3年以内の歯科医業の停止」「免許の取消し」の3つがあります。

(1)戒告

戒告は、厳重注意を行なう行政処分です。
いわば単に注意されるだけなので、歯科医師免許に対する直接の影響はありません。
したがって、戒告を受けても、そのまま歯科医業を継続できます。

(2)3年以内の歯科医業の停止

3年の範囲内で歯科医業の停止を命じられる行政処分があります。
歯科医業を停止されている間は、歯科医師としての診療行為や歯科医院の業務などはできません。

歯科医師免許が取り消されるわけではないので、歯科医業の停止の期間が経過したら、また歯科医業を再開できる可能性があります。
ただし、その場合には、停止期間後に再教育研修を受ける必要があります。

(3)免許の取消し

前科がついたときの最も重い行政処分は、歯科医師免許の取消しになります。
歯科医師免許が取り消されると、再交付を受けない限り歯科医業を再開できません。

また、歯科医師免許を取り消されると「欠格期間」が発生し、その間は歯科医師免許の再交付は受けられません。
欠格期間は、以下の通り前科の内容によって異なります。

罰金刑 1万円以上の金銭の支払を命じられる刑罰
懲役刑や禁錮刑で執行猶予がつく 執行猶予期間の満了時まで
懲役刑や禁錮刑で実刑
(執行猶予がつかない)
刑の執行が終了した後、罰金以上の刑に処せられないまま10年が経過するまで

そして、歯科医師免許が取り消され、欠格期間終了後も、必ず歯科医師免許の再交付を受けられるとは限りません。
まずは再教育研修を受けなければなりませんし、申請しても再交付が認められるとは限らないためです。
過去に悪質な前科がある場合、再交付を拒否される可能性も高くなるでしょう。
最悪の場合、一生歯科医業を再開できない可能性があります。

3 歯科医師の逮捕・勾留によるリスク

前述のとおり、逮捕・勾留されただけでは、「罰金以上の刑に処せられた者」には該当しませんので、それだけで免許取消しなどの行政処分を受けることはありません。
しかし、次のようなリスクは十分に考えらえます。

(1)解雇リスク・休業リスク

逮捕・勾留によって身体拘束されると、当然ながら、その間は歯科医院に出勤できません。
勤務医の場合、勤務先の歯科医院に不審に思われたり、場合によっては解雇される可能性も考えられます。
歯科医院を経営されている方の場合には、身体拘束中、歯科医院を休業にしなければなりません。
長期に渡って休業していると、患者さんに迷惑をかけますし、不審に思われる可能性も高まります。

(2)信用低下リスク

歯科医師に前科がついたら、信用が大きく低下します。
歯科医院を経営している場合には、前科を知られたことで、患者さんが来なくなってしまう可能性も考えられます。

(3)実名報道リスク

歯科医師が犯罪行為をすると、一般的に歯科医師は社会的地位が高く、公共性も高い職業とみなされており、マスコミ(新聞、テレビニュース)によって実名報道される可能性は比較的高いといえます。
実名報道された場合、世間に名前を知られることで重大な不利益が生じることとなります。
そうなったら全国に名前が知られて再起が難しくなる可能性も懸念されます。
歯科医師は信用を重視する職業ですから、前科を避ける必要性が特に高いといえます。

4 歯科医師の刑事事件によるリスクを防ぐための弁護活動

歯科医師が逮捕されたことによって仕事を失わないためには、さらには、前科がつくことによって歯科医師免許取消しなどの行政処分を受けないためには、早期に弁護士に相談・依頼をすることが重要です。

(1)不起訴処分で早期釈放や前科の回避を目指す

不起訴となった場合は刑事裁判自体が開かれなくなるため、前科がつくことはありません。
そのため、歯科医師免許を失わないためには、不起訴処分を得て釈放されることを目指すことが重要となります。
不起訴による釈放の可能性を高めるためには、被害者のいる犯罪の場合、早期に被害者対応を行うことが肝要です。
被害者と示談を締結することで、検察官が、被害回復がなされたことや被害者の宥恕(加害者を許すこと)を考慮し、不起訴の可能性が高まります。

(2)被害者と示談するためには弁護士に依頼する

被害者との間に示談を締結するためには、弁護士によるサポートは欠かせません。
逮捕されている場合、加害者本人は示談交渉をすることができません。
逮捕なしで在宅のまま捜査が行われる場合もありますが、そうであっても加害者と被害者が直接示談交渉を行うことは困難であり、間に弁護士を立てる必要があるのが通常です。
そのため、被害者と示談を締結するには、早期に弁護士に依頼し、弁護士を代理人として対応することが重要となります。

5 弁護士にご相談ください

歯科医師の方は、前科がついた場合の行政処分はもちろん、逮捕・勾留された場合の各リスクは、歯科医師としての仕事に直接かつ甚大な悪影響を与えるますので、可能な限り迅速に対応することが肝要です。
自分一人で対応していると状況が悪化して前科がついてしまうリスクも高くなるため、不起訴処分で早期釈放・前科回避を目指すには、示談交渉等の対応において、弁護士によるサポートは欠かせません。
歯科医師の刑事事件でお困りの方は、早期に弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。

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