1 飲酒運転と罰則
飲酒運転は、道路交通法によって規制されていますが、より具体的には、酒気帯び運転罪と酒酔い運転罪に分類することができます。
酒気帯び運転は、呼気1ℓ当たり0.15mg以上のアルコールを保有する状態で運転することを言います。
道路交通法第117条の2の2第3号によって、酒気帯び運転罪は3年以下の懲役または50万円以下の罰金の対象とされています。
一方で酒酔い運転罪は、呼気中のアルコール保有量とは関係なく、客観的に見て、飲酒の影響で正常に運転できないと判断される場合に規制対象となります。
道路交通法第117条の2第1号によって、酒酔い運転罪は5年以下の懲役または100万円以下の罰金の対象とされています。
2 飲酒運転で人身事故を起こした場合の罰則
【1】人身事故に関する罰則
飲酒運転で人身事故を起こした場合、まず過失運転致死傷罪の該当性が問題となります。
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第5条により、過失運転致死傷罪の罰則は、7年以下の懲役もしくは禁固、または100万円以下の罰金となります。
さらに、飲酒が原因で正常な運転が困難となって、そのことを認識しつつ、あえて運転を継続して人身事故を発生させた場合には、危険運転致死傷罪の該当性が問題となります。
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第2条1号により、危険運転致死傷罪の罰則は、人を死亡させた場合は1年以上の有期懲役、人を負傷させた場合は15年以下の懲役となります。
危険運転致死傷罪は、不注意によって人身事故を生じさせる過失運転致死傷罪とは異なり、故意犯(犯罪を構成する事実関係を認識しつつ、あえて行為に及ぶこと)による人身事故となりますので、非常に重い刑罰が規定されています。
【2】 飲酒運転と人身事故に関する罰則の関係性
飲酒運転で人身事故を起こした場合、それぞれの犯罪が独立して成立し、処罰の対象となります。
もっとも、全ての犯罪に関する刑罰を合算すると非常に重い処罰となりかねませんので、法律上は併合罪といって、一定のルールに従って刑罰の重さが決められることになります。
具体的には次の表のとおりとなります。
ここでは説明を分かりやすくするため、併合罪となるそれぞれの犯罪について、懲役刑のみが選択された場合、または罰金刑のみが選択された場合についてご説明させていただきます。
違反行為
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刑罰 |
酒気帯び運転罪と過失運転致死傷罪
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10年以下の懲役または150万円以下の罰金 |
酒酔い運転罪と過失運転致死傷罪
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10年6月以下の懲役または200万円以下の罰金 |
危険運転致死傷罪
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致傷の場合は15年以下の懲役 致死の場合は1年以上20年以下の有期懲役 |
この表のとおり、罰金刑が選択される場合には、各犯罪の罰金刑の合計額以下の範囲で罰金額が決められることになります。
もっとも、ほとんどの事件で懲役刑が選択されることになります。
また、危険運転致死傷罪が成立する場合、飲酒の事実がすでに評価されているので、酒気帯び運転罪や酒酔い運転罪は別に成立しないこととされています。
3 飲酒運転で事故を起こして当て逃げ・ひき逃げをした場合の罰則
飲酒運転で事故を起こして法律上義務付けられた一定の措置をとらなかった場合、当て逃げ・ひき逃げに関する犯罪の成立が問題となります。
人身事故ではなく物損事故を起こして危険を防止する措置をとらなかった場合、これは当て逃げに分類されます。
当て逃げの場合、道路交通法第117条の5第1号により、1年以下の懲役または10万円以下の罰金となります。
一方で、人身事故の加害者が被害者を救護する措置をとらなかった場合、道路交通法第117条2項により、10年以下の懲役または100万円以下の罰金の対象とされています。
こちらはひき逃げに分類されることになります。
飲酒運転によって事故を起こして当て逃げ・ひき逃げをした場合、法律上、独立した犯罪として成立することになります。
具体的には次の表のとおりとなりますが、ここでも説明を分かりやすくするため、飲酒運転で人身事故を起こしてひき逃げをした場合に関して、懲役刑のみが選択された場合、または罰金刑のみが選択された場合についてご説明させていただきます。
なお、実務上、ひき逃げは救護義務違反罪と呼称されていますので、表ではそのように記載しております。
違反行為
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刑罰 |
酒気帯び運転罪と過失運転致死傷罪および救護義務違反罪
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15年以下の懲役または250万円以下の罰金 |
酒酔い運転罪と過失運転致死傷罪および救護義務違反罪
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15年以下の懲役または300万円以下の罰金 |
危険運転致死傷罪と救護義務違反罪
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致傷の場合は22年6か月以下の懲役 致死の場合は1年以上30年以下の有期懲役 |
4 飲酒運転で人身事故を起こしてアルコールが抜けてから出頭した場合の罰則
飲酒運転で人身事故を起こした者が、アルコール等の影響の発覚を恐れて、さらに飲酒したり、アルコールを抜こうとしたりした場合には、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪への該当性が問題となります。
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第4条により、この犯罪は、12年以下の懲役刑の対象とされています。
飲酒運転によって人身事故を起こし、さらにこの過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪に該当する場合には、法律上、独立した犯罪として成立することになります。
具体的には次の表のとおりとなります。
ここでも説明を分かりやすくするため、それぞれの犯罪について懲役刑のみが選択された場合の刑罰について記載しております。
違反行為
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刑罰 |
酒気帯び運転と過失運転致死傷および過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪
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18年以下の懲役 |
酒酔い運転と過失運転致死傷および過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪
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18年以下の懲役 |
危険運転致死傷と過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪
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致傷の場合は22年6月以下の懲役 致死の場合は1年以上30年以下の有期懲役 |
5 アルコールチェックを拒否した場合の罰則
道路交通法第67条3項により、警察官は危険防止措置の一環として、アルコール検査を実施できることが規定されています。
この警察官の検査を拒否した場合、道路交通法第118条の2により、3月以下の懲役または50万円以下の罰金となります。
6 飲酒運転と行政処分
飲酒運転(酒気帯び運転と酒酔い運転)を行った場合、道路交通法第103条1項により、行政処分の対象にもなります。
具体的には次の表のとおりとなります。
違反行為
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違反点数 | 行政処分 |
酒気帯び運転(呼気1ℓ当たり0.15mg以上0.25mg未満のアルコール)
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13点 | 免許停止90日~免許取消2年 |
酒気帯び運転(呼気1ℓ当たり0.25mg以上のアルコール)
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25点 | 免許取消2年~4年 |
酒酔い運転
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35点 | 免許取消3年~6年 |
なお、行政処分の重さに幅があるのは、前歴や他の違反点数によって処分の重さが左右されるためです。
7 飲酒運転で逮捕された場合の手続きの流れ
逮捕された場合、48時間以内に検察官に身柄が送られることになります。
身柄の送致を受けた検察官は、勾留の必要性を判断し、必要性がある場合には裁判官に勾留請求を行うことになります。
この勾留請求は、身柄の送致を受けてから24時間以内に行う必要があります。
勾留された場合、基本的には勾留請求された日から10日間の勾留となりますが、さらに10日間を限度として勾留の延長が認められています。
この勾留中に検察官は起訴・不起訴の判断を行い、正式起訴された場合には、公判が開始されることになります。
正式起訴された場合には、勾留が継続することになりますが、保釈請求を行うことにより、身柄釈放に向けた活動をすることができます。
一方で、正式起訴ではなく、略式起訴といった、簡略的に刑事処分を決める手続きに進むこともあります。
この略式起訴においては、罰金刑が宣告されることになります。
正式な公判期日は開かれませんので、書面のみの審理で、原則的に略式請求がされた日に罰金刑が言い渡されることになります。
略式起訴による罰金刑が言い渡された場合、身柄は釈放されることになりますが、罰金を納付する必要があります。
8 飲酒運転事件における弁護活動
人身事故を起こして被害者がいる場合には、その被害者との示談交渉を行っていくことになります。
被害者が死亡している場合には、相続人との間で示談交渉を行っていくことになります。
任意保険に加入している場合、損害賠償は保険会社が行うことになりますが、被害者への支払いまで時間が掛かりますので、一般的には刑事処分の結論が先に出ます。
そのため、弁護士は、保険会社による交渉中であり、依頼者に損害賠償の意向があることを有利な情状として主張していきます。
また、飲酒運転のみで人身事故を起こしていない場合には、飲酒量を控えること、可能であれば運転免許を返納し、さらに車を処分するといった事情を明らかにすることにより、有利な情状を主張していきます。
一方で、事実関係に争いがある場合には、法的に適切な主張を組み立てていくことになります。
弁護士が依頼者から言い分を聴取して、法的な主張を裁判所や検察官に対して行っていくことになります。
飲酒運転では、客観的には体内にアルコールが残っているものの、飲酒から時間が経っており、その認識がなかったと主張することが考えられます。
酒気帯び運転と酒酔い運転のいずれも故意犯となりますので、酒気を帯びていることの認識が必要となります。
この認識がない場合には故意が認められないことになりますので、犯罪として成立しないことになります。
このような場合、依頼を受けた弁護士は、飲酒量、飲酒から運転までの時間経過、体温や顔色といった身体の状況、事故の状況等といった事情を踏まえ、故意が認められないことを法的に主張していくことになります。
9 弁護士にご相談ください
飲酒運転の刑事弁護においては、示談交渉を中心とした弁護活動によって、結果が大きく変わる可能性があります。
迅速な対応が必要なため、できる限り早期に弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。
また、特に事実関係を法的に争っていく場合には、弁護士による対応が不可欠でしょう。
飲酒運転の刑事弁護についてお困りの方がいらっしゃいましたら、当事務所までご相談いただければと存じます。
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