1 クレプトマニアについて
(1)クレプトマニアとは
クレプトマニアとは、単に「盗みをしたい」という衝動から繰り返し窃盗行為に及ぶ精神障害のことをいい、日本語では、窃盗癖、窃盗症、病的窃盗などと訳されることが多いです。
特段欲しいわけでもない、金銭的価値がある物でもない、お金に困っているわけではない。
それにもかかわらず、窃盗を行いたい気持ちを抑えることができず、繰り返し窃盗を行ってしまう人がいます。
こういった事案では、「被疑者・被告人は、クレプトマニアではないか?」といった検討をする必要がでてくることになり、特別の配慮をする必要があります。
(2)クレプトマニアの原因と有病率
クレプトマニアの原因は、はっきりしていませんが、ストレス、不安、寂しさなどの要因が関係しているといわれています。
クレプトマニアの有病率は、0.3%~0.6%といわれています。
また、女性は男性より多く、女性3:男性1の比率であるとされています。
(3)クレプトマニアの診断基準
クレプトマニアの診断基準としては、DSM-5(米国精神医学会による『精神疾患の診断・統計マニュアル』)で定められている、次の5つの診断基準が有名です。
A.個人的に用いるためでもなく、またはその金銭的価値のためでもなく、物を盗もうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返される。
B.窃盗に及ぶ直前の緊張の高まり。
C.窃盗に及ぶときの快感、満足、または解放感。
D.その盗みは、怒りまたは報復を表現するためのものではなく、妄想または幻覚への反応でもない。
E.その盗みは、素行症、躁病エピソード、または反社会性パーソナリティ障害ではうまく説明されない。
このような基準に該当すれば、クレプトマニアである可能性が高いです。
なお、この診断基準の解釈にあたっては、柔軟な解釈を採用するべきとする裁判例があり、クレプトマニアの刑事弁護を行うに当たっては、有用であり、参考になるものです。
(4)クレプトマニアの治療機関
クレプトマニアは精神疾患の1つですから、適切な治療により、改善を図る必要があります。
精神科・心療内科を受診し、薬物治療や認知行動療法を続けることで、改善する可能性があります。
2 クレプトマニアの刑事弁護
クレプトマニアであるからといって、直ちに無罪となったり、刑が軽くなったりすることはありません。
他の犯罪類型と同様、適切な刑事弁護が必要となります。
(1)示談・被害弁償
クレプトマニアによる窃盗事案であっても、他人の財産への侵害行為には変わりありません。
通常の窃盗事案と同様に、被害者との間で示談や被害弁償を行い、被害者の経済的被害を回復させることが有用です。
(2)医療機関・福祉関係機関との連携
クレプトマニアの診断・治療のためには、専門の医療機関への早期の受診が必要となります。
もっとも、逮捕・勾留され、身柄が拘束されている場合に、そのような受診は望むことができません。
そこで、身柄の解放のために、検察官に勾留請求をしないように主張したり、裁判官に勾留決定をしないように主張したりする必要があります。
それでもなお、勾留決定がされた場合には、勾留決定に対する準抗告を行い、直ちに身柄を解放させ、専門の医療機関を受診させるように動く必要があります。
仮にそのような活動が功を奏しない場合であっても、福祉関係機関に相談をし、精神保健福祉士、社会福祉士、公認心理師などの専門職に面会への同行を求め、更生支援計画などの作成を依頼することも有用です。
(3)捜査機関・裁判所への主張
クレプトマニアに関する主張をしたとしても、捜査機関・裁判所がクレプトマニアに精通していない可能性もあります。
そこで、クレプトマニアとは何か、どのように犯行に影響を及ぼしているのか、治療によってどのような改善が見られるか、などといった事情は、弁護人から適切に主張する必要があります。
必要に応じて、医療機関に意見書の作成をお願いしたり、福祉関係機関に更生支援計画の作成をお願いしたりすることで、捜査機関・裁判所へ適切な理解・判断を求めるような弁護活動を行うことが必要となります。
3 クレプトマニアの弁護を弁護士に依頼するメリット
クレプトマニアの弁護を弁護士に依頼することによるメリットは多々あります。
(1)早期の身柄解放
クレプトマニアに対しては、早期の治療が必要といえます。
早期の治療を受けさせるためには、検察官・裁判官との面談、勾留決定に対する準抗告、保釈請求など、様々な法的手段があります。
弁護士に依頼することで、早期の身柄解放に向けた活動が可能となり、早期の治療も実現できることになります。
(2)有利な処分・判決の獲得
在宅事件の場合には、有利な処分を獲得するために、クレプトマニアの専門的治療等を受け、治療実績・通院実績を積み重ねていくことが大切です。
このような実績については、参考となる資料も添付しながら、報告書の形で検察官や裁判官に報告し、理解を示していただくように、活動することができます。
(3)再犯防止のための取組み
クレプトマニアの治療については、被疑者・被告人おひとりで継続していくことには困難を伴います。
そこで、被疑者・被告人のご家族にもご協力いただき、家族ぐるみで関係機関と連携を図ることができる体制を構築することが考えられます。
弁護士が窓口となって、関係機関と連携を図り、優良な関係を構築することに成功した場合には、主治医や福祉専門職に出廷していただき、裁判官の面前で証言していただくことも可能になります。
また、有利な処分・判決の獲得が最終目標ではありません。
弁護士であれば、二度と犯罪を行わないように、関係機関に適切に引き継ぐことも可能となります。
4 当事務所にご相談ください
クレプトマニアによる窃盗事件では、刑務所への収容よりも、専門機関による適切な治療を優先すべきです。
病気に振り回されない「普通」の生活を送れるようにするためには、その人が必要としている治療や適切な福祉的支援を受けられるようなサポートが必要となります。
クレプトマニアの刑事弁護でお困りの方は、当事務所の弁護士にご相談ください。
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