1 名誉棄損罪・侮辱罪の概要

(1)名誉とは

名誉棄損罪・侮辱罪は、名誉に対する罪と言われており、名誉を守るための犯罪です。
ここでいう「名誉」とは、外部的名誉、すなわち、人についての事実上の積極的な社会的評価をいいます。

(2)刑罰

名誉棄損罪は、法律上、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が予定されています。
侮辱罪については、法律上、1年以下の拘禁刑・拘留(1日以上30日未満の収監)もしくは30万円以下の罰金・科料(1000円以上1万円未満の金銭罰)が予定されています。
2022年の刑法改正により、侮辱罪に対する罰則が引き上げられています。

(3)親告罪

名誉棄損罪・侮辱罪のいずれも親告罪とされています。
親告罪とは、被害者による告訴がなければ公訴を提起することができない種類の犯罪類型のことです。
そのため、被害者が告訴をしない場合や、示談により告訴を取り消してもらえた場合には、確実に不起訴処分となります。
一方で、起訴されてしまうと、起訴後に告訴を取り消すことはできなくなります。

(4)公然性

名誉棄損罪は、「公然と」事実を摘示し、人の名誉を棄損した罪であり、侮辱罪は「公然と」侮辱する罪です。
「公然」とは、不特定または多数人が認識できる状態をいいます。

SNS上での投稿や、動画配信サイトのコメント欄への記載は、公然性は認められます。
一方で、密室で1対1の状態で言われたことや、DMのような個人間のやり取りの中での発言については、公然性の要件を満たしません。
ただし、このような犯罪にはならない言動であっても、民事上の損害賠償責任を負うことはありますので、ご注意ください。

2 名誉棄損罪と侮辱罪の違い

名誉棄損罪と侮辱罪との差は、具体的な事実の摘示をしたか否かです。
具体的な事実を摘示して、人の名誉を棄損した場合には、名誉棄損罪、事実を適示せずに、人に対する侮辱的価値判断を表示した場合には、侮辱罪の成立が考えられます。

例えば、「Aさんは、バカで役立たずだ。」というSNS上の投稿は、事実の摘示をしたものとはいえず、侮辱的価値判断を表示されたにとどまるため、侮辱罪の成立が検討されます。
仮に「Aさんは、バカで役立たずだ。高校のテストも赤点ばっかりで、最下位常連だったもんな。」というSNS上の投稿は、事実の摘示があるため、名誉棄損罪の成立が検討されます。

3 名誉棄損・侮辱事件における刑事手続の流れ

逮捕された場合には、逮捕から48時間以内に事件が検察庁へ送られます。
検察官は、引き続き身柄を拘束する必要があると判断した場合には、事件を受け取ってから24時間以内に裁判官に勾留請求をします。

裁判官は、勾留する必要があると判断した場合には、勾留決定をします。
勾留期間は最大10日間ですが、それに追加して最大10日間勾留期間の延長がされることがあります。

名誉棄損・侮辱事件では、現行犯逮捕が想定しづらいうえ、比較的軽微な事案が多いため、逮捕・勾留される事案は、あまり多くありません。
そのため、大半は、在宅事件として、身柄が拘束されないまま、捜査が行われます。
しかしながら、逮捕・勾留の要件が満たされていれば、適法に逮捕・勾留されることは十分に考えられ、「名誉棄損・侮辱事件で逮捕されることはない」というのは誤りです。

捜査の結果、検察官が起訴処分を行うことがあります。
名誉棄損・侮辱事件では、簡易な手続で罰金刑に処する略式起訴処分が行われることが多いように見受けられます。
ただし、誹謗中傷の程度や前科・前歴の有無などによっては、公判請求され、公開の法廷において厳格な審査がされ、その結果、拘禁刑が言い渡されることもあります。

4 名誉棄損・侮辱事件における刑事弁護のポイント

(1)罪を認めている場合

名誉棄損・侮辱事件のように、被害者が存在する犯罪においては、被害者との示談が有効です。
特に、名誉棄損・侮辱は親告罪ですから、示談の中で、告訴をしない(すでに告訴がされている場合には告訴を取り下げる)旨の合意をすることで、不起訴処分を獲得することが確定的です。

もっとも、被害者の中には、加害者本人に対して、連絡先を教えることを拒む人もいます。
そのような場合には、弁護人限りで情報の開示を受けるなど、弁護人(弁護士)が間に入ることで、示談交渉がスムーズに行えることが多いです。

(2)罪を認めていない場合

名誉棄損罪や侮辱罪が成立するにあたっては、種々の要件があります。
そのうち、どの要件を争うかによって、弁護の方針が異なります。
名誉棄損・侮辱に詳しい弁護人と相談のうえ、弁護の方針を検討していく必要があります。

5 弁護士にご相談ください

近年は、SNSの普及により、気軽に全世界に向けて発信できる社会となりました。
誰でも容易にSNS上で名誉棄損・侮辱を行うことが可能であるということです。
そのため、近年では、SNS上での誹謗中傷が社会問題として取り上げられることも少なくありません。

名誉棄損・侮辱事件でお困りの方は、刑事事件に詳しい当事務所の弁護士にご相談ください。

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