1 風俗トラブルで問われる罪
風俗トラブルを起こしてしまうと、刑事罰の対象となることがあります。
典型的なところでは、女性店員の意思に反して本番行為をすることや、密かに女性店員の盗撮をすることです。
該当する犯罪について具体的に解説いたします。
(1)本番強要
法律上、風俗店では本番行為が禁止されていますが、同意を得て本番行為が行われる場合や、同意を得ることなく強引に本番行為が行われることも起こり得ます。
真実は女性店員の同意を得て本番行為をした場合であっても、密室で女性店員と2人のみの状況となるため、同意の有無が争いになることも多く見られます。
実際には同意があったとしても、裁判では証拠が重視されますので、証拠によって同意がなかったことが証明された場合には、処罰の対象となります。
そのため、悲しいことではありますが、安易な本番行為に及んだために、女性店員の虚偽の訴えによって冤罪に巻き込まれるリスクがあるのです。
本番行為で問題となる刑事罰は、刑法177条の不同意性交罪となります。
この不同意性交罪に該当する場合、5年以上の拘禁刑の実刑判決を受ける可能性があります。
不同意性交罪は、暴行・脅迫を用いた場合や、意識がはっきりしない状況で同意の意思を明確に伝えることができない中で本番行為に及んだ場合に成立することになります。
なお、この不同意性交罪は、厳密には本番行為以外の性交類似行為も処罰の対象となっています。
不同意性交罪は非常に重い犯罪であり、最近の量刑傾向を見ると、初犯であっても基本的には実刑判決が想定される犯罪類型となります。
法律上定められた刑罰についても、執行猶予が原則的に付けられない重さの刑となっています。
安易な本番行為によって風俗トラブルに巻き込まれると、実刑判決を受け、その後の人生に大きな影響が生じることになります。
また、対価を支払って本番行為に及んだ場合、売春防止法違反となると考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、売春防止法においては、買う側が買春行為を行うこと自体は刑事罰の対象となっていませんので、本番行為自体がこの法律によって罰せられることはありません(買う側では児童買春を行った場合、売る側では売春の仲介や、女性を管理して売春を行わせた場合等には、刑事罰の対象となります)。
(2)盗撮
サービス中に女性店員に気付かれることなく撮影することも、刑事罰の対象となります。
盗撮で問題となる刑事罰は、撮影罪となります。
盗撮は性的姿態撮影等処罰法の撮影罪という犯罪に該当し、同法第2条により、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金刑が科されることになります。
この撮影罪は、令和5年7月13日から適用されることとなった犯罪であり、それ以前の盗撮行為については各都道府県の迷惑防止条例によって処罰の対象となっていました。
例えば青森県の場合、迷惑行為等防止条例第6条第3項によって、正当な理由なく、衣服の全部もしくは一部を着けないで住居等にいる他人の姿態を撮影することが禁止されており、10万円以下の罰金または拘留もしくは科料に処されることが定められています。
さらに迷惑防止条例の要件に該当しない場合であっても、盗撮は軽犯罪法に違反することがあります。
このように、軽い気持ちで盗撮をすると刑事罰の対象となりますので、十分な注意が必要です。
2 風俗トラブルのポイント
風俗トラブルに巻き込まれてしまった場合、対応のポイントとなる点について解説いたします。
具体的には、逮捕されるのかという点と、風俗店から要求される金銭を支払う必要があるのかどうか、という2点となります。
(1)逮捕されるのか?
風俗トラブルに巻き込まれ、刑事罰に該当する行為があった場合、法律上は逮捕される可能性があります。
しかし、実務上、このような風俗トラブルで逮捕まで発展することは、ほとんど見られません。
被害を受けた女性店員や風俗店は、金銭的な解決を目的としており、刑事事件にまで発展させて処罰を求めていることは少ないためです。
このように、風俗トラブルは刑事罰に該当する場合もありますが、民事的な側面が強くみられる事案となります。
そのような事案の性質は捜査機関も理解しており、風俗トラブルでの告訴や被害届の受理については積極的ではありません。
仮に警察が捜査を開始する場合であっても、簡単な事情聴取を受け、現場での引き当たり捜査へ協力する程度にとどまることが多く見られます。
もっとも、それは民事的な側面での解決が柔軟に進められる場合の想定であって、本番行為の内容が悪質で女性店員や風俗店の被害感情が強いときには、警察としても告訴や被害届を正式に受理し、本格的に捜査を行うこともあります。
そして、警察が本格的な捜査を行っているときに、女性店員と連絡を取って有利に証言するように働き掛け、あるいは逃亡を図った場合等には、逮捕される可能性が十分にあります。
そのため、油断することなく民事的な側面について解決し、逮捕されないように対応していく必要があります。
(2)言われるままに罰金を支払うべきか?
風俗店は、風俗トラブルの発生を知った場合、高額の示談金を請求してくる場合があります。
このようなときは、トラブルに巻き込まれた利用客側としては、自分に落ち度があることも避けられないことから、高額であっても示談金の支払いに応じた方がよいと考える場合もあるかもしれません。
実際の事案として、示談書にサインすることを強い口調で要求されることもあるようです。
しかし、一般的に風俗店が提示する金額は、実務上で認められる相場の金額を大幅に超える金額であることが大半であり、仮に正式に裁判になった場合であっても、到底認められない高額の示談金である場合が多く見られます。
ここで注意すべき点が、一度示談書にサインしてしまうと、その効果を覆すことは基本的に難しくなるという点です。
示談書にサインすることは、法的に見れば示談契約に合意したという意味であり、そこに書かれた金額に納得したことを意味します。
そして、一旦納得してサインした以上は合意した示談金に拘束され、その効力を覆すことは原則としてできません。
確かに、示談書にサインした場合であっても、その効果を覆す方法はいくつかあります。
例えば、余りに高額で常識はずれのため無効であるとの主張や、そのような高額での示談に応じる意思はなかったとの主張、さらに風俗店に脅されて示談したため示談契約を取り消すとの主張が考えられます。
しかし、このような主張のいずれについても、示談書の効力を否定する側が積極的に事実関係の主張立証を行う必要があることから、覆すことはハードルが高いことも少なくありません。
そのため、まずは安易に示談書にサインせず、弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。
言われるがままに罰金を支払うべきではなく、交渉によって適切な金額を決めるべきです。
3 風俗トラブルが起こった場合の対処法
風俗トラブルが起きてしまった場合の対処法について、解説させていただきます。
(1)示談をする
風俗トラブルが発生すると、民事的には、利用客側は不法行為による損害賠償債務を負担することになります。
風俗店は、不法行為を根拠に損害賠償請求を行ってくることになりますが、その金額は法律上一義的に決まっているものではありません。
そこで利用客側と風俗店の間で金額を巡って争いが生じることになりますが、適切な金額で示談を行うことにより、この金額に関する法的問題を解決することになります。
このようなやりとりを行うのが示談交渉となります。
先ほど「言われるままに罰金を支払うべきか?」の項目で、交渉によって適切な金額を決めるべきであると解説いたしましたが、その交渉が示談交渉となります。
示談交渉を行い、風俗店との間で金額について合意し、その他の条件も決めることにより、法的には示談契約が成立することになります。
この示談契約に基づいて一定の金額の支払いを行うことになりますが、まずは示談契約の成立を目標として活動することになります。
(2)やり取りを録音する
示談交渉は、弁護士に依頼せず、当事者同士で行うこともできます。
弁護士が当事者となって交渉する場合、交渉の過程を録音することはあまりみられませんが、当事者同士で交渉を行う場合には録音をお勧めいたします。
録音をする際に、風俗店の了解を得る必要はありません。
相手方の同意を得ることなく録音することは、法的には秘密録音という扱いとなりますが、バックに録音機器を入れて録音していたといった単純な態様であれば、その違法性が問題視されることは基本的にはありません。
録音して交渉の経過を記録に残しておくことにより、「言った、言わない」といった水掛け論になることを未然に防止することができます。
また、風俗店から脅迫的な言動があった場合には、録音によってその発言を証明することができます。
このように、録音は非常に有効な証拠保全の手段となりますので、当事者同士で交渉を行う場合には、録音することをお勧めいたします。
(3)弁護士に相談する
弁護士にご相談いただくことにより、解決策について助言することができます。
弁護士が介入した方がよい事案については、依頼を受けることにより弁護士が代理人となって交渉等を行うことができます。
介入すべきかどうかは、弁護士において判断することができますが、基本的に風俗トラブルの場合には、弁護士が介入することのメリットが大きいと思われます。
依頼を受けた弁護士が行う具体的な活動については、次の項目で解説いたします。
4 風俗トラブルに対する弁護士の活動
(1)本人・家族からの事実確認
依頼を受けた弁護士がまず行うことは、本人または家族から事実関係を確認することです。
弁護士は、5W1Hに注意しながら、どのような事情で風俗トラブルが発生したのかを確認していきます。
また、示談書や念書といった法的に効力のある書面はすでに取り交わされているのか、罰金や示談金といった金銭の支払いはあるのか、といった情報を収集していきます。
弁護士は守秘義務を負っていますので、弁護士に話した内容が依頼者の了承を得ることなく第三者に漏れることはありません。
そのため、弁護士から事情聴取を受ける際には、安心してお話しいただくことができます。
事実関係を確認した弁護士は、方針を決定のうえ、事案の対応に着手することになります。
(2)適切な内容・金額で示談する
次に弁護士が行う活動は、適切な内容・金額で示談することです。
弁護士であれば、被害に遭った女性店員や風俗店と示談交渉を行うことができます。
示談交渉といった法律事務を行うことができるのは、弁護士のみとなります。
弁護士は、できるだけ早期に、事案に即した妥当な金額で示談を進めていきます。
風俗店は不当な条件での示談を迫ってくることから、妥当な金額で示談をするためには交渉をすることが必要です。
示談金は当事者の合意で決まるものですので、たとえ相場より高い金額であっても、当事者が納得のうえで決めた金額であれば、その金額で示談契約が成立することになります。
弁護士であれば、裁判となった場合の示談金の相場について専門的な知識があります。
そのため、弁護士は、仮に裁判となった場合を想定しながら、適切な金額での示談金で合意することができます。
また、弁護士は、基本的には実務上の相場を考慮しつつ、個々の依頼者の要望にできるだけ応えるようにして示談金を決めていきます。
例えば、家族や職場に絶対に知られたくないといった早期の示談解決の要請がある場合には、相場より高い金額で示談することもあり得ます。
一方で、示談金を可能な限り抑えたいという希望であれば、交渉を粘り強く進めていくことになります。
ケースバイケースで示談交渉を進めていきますので、示談交渉は、まさに弁護士の専門性が高度に発揮される場面となります。
(3)家族や職場に発覚することを防ぐ
風俗トラブルはセンシティブな法律問題であり、家族や職場に知られたくないと考える方が多いと思います。
そこで、弁護士の活動として、示談をする際、口外禁止の条項と、それを破った場合の違約金の条項を入れることで、風俗トラブルが家族や職場に発覚することを防止します。
(4)警察に逮捕されることを防ぐ
弁護士の活動として、警察に逮捕されることを防ぐため、警察との間で弁護活動を行っていくことが考えられます。
弁護士による刑事的な側面における対応となります。
前述いたしましたように、風俗トラブルは民事的な紛争の側面が強いため、警察が介入し逮捕されることは多くありません。
しかし、逮捕のリスクが全くないわけではありませんので、リスクを可能な限り回避するためにも、逮捕前に示談を成立させます。
そして、示談を成立させた弁護士は、警察に示談書と同時に、身柄拘束の必要性が乏しいこと等を主張する意見書を提出することで、逮捕の可能性をできる限り減らすことになります。
(5)身分証明書の破棄を求める
弁護士の活動として、身分証明書の破棄を求めることが考えられます。
風俗トラブルとなった際、風俗店が利用客の個人情報を把握しておくため、身分証明書のコピーや写真を取ることがあります。
このような一方的な身分証明書の取得は法律上の根拠がないものですが、風俗店が高圧的な態度を示すことにより、コピーや写真撮影に応じてしまう方もいらっしゃると思います。
示談成立となる場合、示談金を支払うのと引き換えに、風俗店が所持している身分証明書のコピー等の破棄を求めることができます。
交渉のプロである弁護士であれば適切に交渉を行って破棄を約束させ、示談契約書にその旨を記載させることになります。
5 風俗トラブルを弁護士に依頼するメリット
風俗トラブルを弁護士に依頼した場合、次のようなメリットがあります。
(1)交渉を弁護士に一任できる
弁護士が依頼を受けた場合、依頼を受けた旨の通知を相手方に送ることになりますが、その後の交渉の窓口はすべて弁護士が担当することになります。
依頼者が風俗店と直接連絡を取っていただく必要はなく、風俗店も依頼者と直接連絡を取ることはできません。
弁護士に依頼することにより、ご自身で連絡を取る負担から解放されることができます。
(2)専門的な知識や経験を活用することができる
弁護士は法律の専門家ですので、風俗トラブルに関係する法律や、裁判となった場合の示談金の相場について、専門的な知識と経験があります。
確かに、示談交渉といった風俗店との対応は、ご自身でも対応することは可能です。
しかし、風俗店もこのようなトラブルには慣れており、高圧的な態度で高額な示談金の支払いを迫ってくることがあります。
そのような態度の風俗店に対し、専門的な知識や経験がない方が交渉を行うことはストレスや負担を感じることでしょう。
弁護士に依頼することにより、弁護士の専門的な知識や経験を自分自身のものとして活用することができます。
(3)逮捕を回避できる可能性がある
弁護士に依頼すれば、逮捕の回避に繋がる可能性があります。
もちろんすべての事案で逮捕を回避できるものではありませんが、風俗トラブルに巻き込まれ示談交渉もせずに放置しておくと、風俗店をさらに刺激することになり、報復のために警察に通報され逮捕に至ることも考えられるところです。
弁護士が介入して示談の姿勢を示し、風俗店を交渉の場に引き出すことになります。
さらに、前述しましたように、警察と連絡を取って依頼者を弁護することもできます。
このように、弁護士に依頼した場合、逮捕を回避できる可能性があります。
(4)前科の回避に尽力してもらえる
風俗トラブルで警察の捜査を受けることになると、検察に事件が送致されることにより、起訴されて有罪となり、前科が残ることもあります。
検察官が起訴することによってほとんどの場合で前科が付きますが、起訴の判断の際に検察官が重視しているのが、示談成立の有無です。
示談金が支払われ、風俗店や女性店員も処罰を望んでいないことが示談契約書によって証明できる場合には、事件は不起訴になる可能性が高まります。
依頼を受けた弁護士は、示談を成立させ、前科の回避に向けて活動していくことになります。
6 当事務所にご相談ください
風俗トラブルにおいては、示談交渉を中心とした弁護活動によって、結果が大きく変わる可能性があります。
迅速な対応が必要なため、できる限り早期に弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。
風俗トラブルに巻き込まれてお困りの方がいらっしゃいましたら、当事務所までご相談いただければと存じます。
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